酒屋日記 

小川酒店@滋賀浜大津、京阪電車沿いの酒屋のつぶやき

きたぽんさんのごっつおう

きたぽんさんが来滋賀、不老泉と薄桜をご訪問。
でうちに宿泊 そして夕食を造ってくれはることになったんです!!!
奥様茂々子さんの 名文がずっと心に残っていて、前のFacebookの投稿を探したらありました。そして、我が家にも夢のような宴がやってきました。
 

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端折るつもりが、あまりにも名文でそのままコピーしてしまいました。
文才ありすぎ!なので藤田千恵子さんとも仲良しなんやて。
 
【恋する凡人】
天才と馬鹿は紙一重というが、わたしは表裏一体だと思っている。
最近よくきかれる「なぜそこまできたぽんを支えるのか」「なぜオープニングイベントであんな大御所たちがゲストできてくれたのか」この答えになるかわからないが、書いてみようと思う。
自分の夫を天才だ馬鹿だいうのもあれなのだが、うちのきたぽんは非常に不思議な生き物だ。
道に落ちてるうんこに向かって踏みたい人のように突き進んでいくし、
田舎道を歩けば側溝に向かって歩いてゆく。
落としてそのまま行こうとした後ろ姿も見たが財布、名刺入れなどをとにかくなくす。
書く文章がアナグラムのように難解で、慌ててしゃべろうとするので言っていることもたまに難解。
屋内外問わずおならを連発しては「スカンク界のプリンスです♪」とおしりふりふり得意げ。
ガーデンプレイスはガーデンプレス、青山サケフリーはサケフィルム、様々な名称を間違って記憶し、何百回指摘しても直らないし直す気もない。
facebookきたぽん酒ページに「つまみないです。」と自分で投稿しておいて、「お客さん来ないなぁ~」と本気で言うし、
馬レバー入荷を知らせる投稿の写真はバナナだ。
何故だ。
何故なのだ。
こんなことを書いてしまうわたしが、夫きたぽんは独立してお店を持つべきではないのかと思ったきっかけははっきりと覚えている。
近所の呑み屋できたぽんと出会ったのはほんの3年1か月前で、この出会いから1週間後には一人暮らしのわたしのうちに転がり込んできて鍵の交換を求められた。
たとえるなら禿げ頭がみぞおちに突進してきて、ごふぅっとこちらが泡吹いている間に足元にお腹出してころがっていてしっぽ振ってる感じだ。
考える余地のないスピード感で、出会いから4か月半で入籍している。
入籍前か後かは失念してしまったのだが、とある一緒のお休みの日にきたぽんが食事を作ってくれることになった。
技術職あるあるかと思うが基本的にプライベートな時間に本職のことはしたがらないのはお互い様で、わたしに食事を作ってくれるのははじめてだった。
一緒に食材を買い物をしながら、あーとかうーとかなにか言っている。
家に帰った途端に普段の3倍速で動き出したので、ここはプロに任せた方がよいとわたしは風呂に入り鼻歌まじりに1時間ほど半身浴をした。
上がって部屋のテーブルの上を見た時は本当に度肝を抜かれた。
だってね奥さん、当時のわたしの部屋は自炊する気のない小さなキッチンに一口IHコンロしかなかったのですよ。
だのに日常食しているものとは違うなんだか旨そうなものが5品もきらきらとあったわけですよ。(わたしのfacebookページのカバー写真)
食材を見ながらレシピを脳内で構築し、超短時間で器材も揃わない場所で再現し、しかもめちゃくちゃおいしい。
この人、変だけどもしかしてすごいんじゃないかと気づいたのはこの時である。
きたぽんが長年働いていた酉玉もよく行っていた。
一人で行くので食べているか店内を見ているかなのだが、常連さんのお酒の頼み方が皆さま「北尾さん次~」だった。
お酒を出すと、皆さま北尾がなにか言い出すのを待っている。
そこにたっぷりのお酒の説明、背景、蔵元さんのお話し、うんちくが降ってくるのを、楽しそうにきいている。
1訊かれたら10答える。
知らないことはないのか?!
この人、変だけどもっと評価されるべきなのではないだろうか。
酉玉時代から続ける営業日に必ず行う利き酒、今日の日本酒は1000投稿を超え、その独特の嗅覚味覚はたくさんの方が注目してくれている。
だがそれをまだ活かしきれていないことも事実である。
いろいろな方々に独立しないのかと問われていたが、できないことは傍にいてわかっていた。
お金がない。
真面目すぎる。
不器用すぎる。
そして自分に自信がなさすぎる。
幸いわたしには手に職があり、天賦の才はなくとも努力できる凡人なので、売上を横から搾取するだけの存在を排除すれば、店舗物件探し中の定職につけない間おっさんと自分くらい養えると思った。
マッサージのサロンをはじめることは大したお金もかからないし、ランニングコストもほぼかからない。
しかし飲食店は莫大なお金がかかり、公庫なり銀行から借入が必要となるはずなので、その際有利になるかと先に会社を設立しエステ部門だけスタートさせた。
恵比寿広尾という人気エリアの飲食店舗物件探しがこんなに厳しいのかということは予想外で苦しかったが、たくさんの方々のお力添えがあり、きたぽん酒オープンまで辿り着くことができた。
自分の実力を過小評価し、ネガティブ思考でめんどくさいきたぽんは、やっとスタートラインに立てたのだ。
きたぽんのためになぜそこまでするのかというか、
善知鳥の今さんがさすが正解を出していた通り、ここまでやらないとやらないのだこやつは。
わたしがきたぽんをすごいなと思うことがもうひとつ。
この人は人の悪口を言わない。
せまい業界だから、聞きたくない噂話も届いてしまう。
わたしは性格が悪いからなんだこのやろうとすぐに怒るのだが、横できたぽんは、そういわれてしまう自分が悪いんですごめんなさいと自分を責める。
なんでだよ、お前悪くないじゃん。
誰々もがんばっているんだよと、泣きそうな顔で鎮められる。
なんだよこのピュアなおっさん。いじめないでくれよ。
確かにきたぽんは不器用だ。
人より劣る部分もたくさんあるだろう。
でも20年近く前から日本酒に着目しこつこつ築いてきた人脈、勤勉で有識者も驚く広く深い知識、辞書のような記憶力、人より優れている部分だってたくさんあるのだ。
日本酒や料理に関する情報をインプットすることに脳の許容量の大半を使用するから、ガーデンプレスになってしまうのだ。
きたぽんが人を悪く言えるほど自分に自信があり、情報を操作するほどずる賢く、裏切りに報復するような強さがあったなら、とっくの昔に自分のお店を持ってそれなりに繁盛している。
アンバランスで努力家で自分に自信のないきたぽんだから、とんでもない大御所の皆さままで支えてくれるのだ。
そして「ふつう」なんてぶっ飛ばしたなにかを期待するのだ。
きたぽんが一度だけ、とても怒ったことがある。
その時の話になると、今でも怒る。
とある日本酒の店に行った時、若い店主たちが「日本酒業界の先人たちが頑張ってないから今の日本酒業界はこの程度なんだ」と話していた。
その場では穏やかに抑えたけれども、家で烈火の如く怒った。
たくさんの先輩方の戦いを、苦悩を、挫折、志半ばで力尽きた痛みや、伝わっていく喜びも、20年近く決して出しゃばらずにずっと傍で見続け、全国をまわって声をきいて、感じて、知って、意見もあげて、時には言い合いになって一緒に戦ってきたから。
穏やかでぼけ~っとしたきたぽんの中には、引き継がれてきた熱い想いがあります。
だから、真実を見極めることのできるすごい人たちが期待してくれるのだと思います。
きたぽんの奮闘を、どうか皆さま長い目で暖かく見守っていただけるとありがたいです。
嫁としては体力がないところが心配なので、皆さまに甘えたことを言ってしまっても悪気はないと許してやってください。
毎日横に転がっているこの丸く暖かいものが、いつまでも元気に楽しく過ごせますように。

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