酒屋日記 

小川酒店@滋賀浜大津、京阪電車沿いの酒屋のつぶやき

試験酒

もう15年以上前に、ある山廃のもろみが他のもろみと全然違ったものがありました。そのようなことはごくごくたまにしかないのですが、この時はすごく印象に残っております。これは酵母を分離しなきゃと思い、直ぐにもろみを採取して、岡田研究員に持ち込んで酵母を分離してもらいました。それをどうしようかと意気込んではおりましたが、当時山根杜氏はそれほど興味もなく 毎年毎年保存酵母を冷凍から起こして、その酵母を活性化したら使えるようにした状態で、秋に保存代金と引き替えにもらうといったことを続けている間に、やっぱりお金のかかることだからもったいないな~と思いだし、そうしたらいたずら根性が沸々と湧きだしてきたのでした。実はここだけの話、もろみ1本だけ杜氏には協会7号ですと言いはって、この保存酵母を内緒で培養して使ったのでした。失敗したら責任ものでしたが、当時私もいい加減なもんだったんで、そんなこと考えずにやってしまってました。さて、いざもろみで発酵となりましたら・・・・普通。あまりに普通・・・・。ちょっと拍子抜け。あの香りやあのソフトさがまったくありません。ダメなのかなぁ~と思いだしていましたね。そろそろもろみの終盤に差し掛かろうかといったところ、いったん発酵が弱まりそろそろしぼり時期かなと思った翌日に、人が(酵母が??)変わったようにまた元気に発酵し出して、今度は低温においてもどんどん切れる切れるで何ですかこれは??って??杜氏は何かおかしいことに気付いたのか「ホントに7号培養したんか??」と疑われ、「前にこんなこともありましたやん」なんか言って大汗かきながらごまかしてまして・・・・ようやくしぼり。しぼってみたら日本酒度+12!!しぼらずにもっと放置してたらもっと切れたろうなと・・・・・。しかし、味はやっぱりなめらかでうまくて、この酵母は違うなと感じたと覚えています。でも、あの香りはないなと。そのしぼったお酒は他の7号のお酒に全部ブレンドされ、陽の目を見ることはなかったのでした。それからはしばらくその酵母のことは忘れたというか、あの大汗をかくのはしばらくは経験したくないと・・・できなかった・・・・・です。でも、それからも毎年の秋には酵母が届き続けるのです・・・・・・・。

さて、それから10年以上の時が過ぎ、相変わらず秋にうちの分離酵母を見ているわけで・・・・・もったいない、しかし廃棄するのももったいない。そんな感じでしたね。そこに登場するのが現杜氏の横坂杜氏です。杜氏は山根杜氏の下で天然酵母での酒を造ってみたいとうちに来てくれた杜氏です。そして自分の栽培した米で酒を造りたいと強く思ってる人です。
私も保存酵母にはあまり興味をなくしてというか、無理にとは言えないなと思ってもおりましたから、まあ言うだけ言ってみようかといった感じで 2年目の造りの前に話してはみました。まあ杜氏にしてみても最初は言われたからまあやってみようかと、あまり興味のない感じに受け取れました。けど、やるってことは全く興味のないことでもないのかなと???で、今回はもし失敗したらかなわないからと、工業センターにいる岡田君にちゃんと酒造りに使えるかとTTC染色とか発酵能力を見てもらって、大丈夫と言ってもらってからの1本だけの仕込みでした。今回は杜氏にもう言ってあるので、今回は堂々と杜氏と話しながらのもろみ経過観察でした。もちろん速醸ですよ。山田錦60%精米の純米吟醸です。杜氏もどんな発酵をするのか、そしてどんな酒になるのかと興味もあったのかなと思いながら。それからたまに杜氏に「どう??」って聞くくらいにとどめておりました。やっぱり他のもろみもあるので、そのことばかりも聞いちゃいかんと思ったので。でも杜氏も少し興味が湧いてきたのか、質問に答えてくれるようにもなり、「7号と比べて酸が多い」と話しておりました。
 そうしてしぼりを迎えたのですが、この酵母でのお酒がとても良く、一般からも良い評価を得られることができたら、うちの速醸の酵母をこの酵母に変更して、不老泉は速醸も蔵付酵母を使っていることにできれば、全国でもあまり類を見ない蔵元になるのではないかと勝手に思ってました。話題性を求めて一気にこの酵母に変更することは簡単ではありますが、やはり、これからうちの速醸を任すには慎重にしていかなければならないと思っておりましたので、まずはこのを飲まれた方からの評価を聞くのが先決と、今年は商品化を考えずに試飲用サンプル的に一升瓶を50本だけ無濾過生原酒で瓶詰したのでした。正直このことを知った蔵元なんかはこれを真似て、しかも最近は酵母無添加の生酛、山廃のお酒も見られるようになっているので、うちよりも先にやるところも出てくるだろうなって思うとこのお酒の評価がすごく良くなることを願う気持ちがやはりあります・・・・・・・・そりゃやっぱりね。そうしてしぼった新酒を飲んでみると、やはり酸は立ちますね。以前のうちの山廃は酸がかなり高かったので、うちの懐かしい山廃の味だねって思って、これだったら使えるんじゃないかなと期待して、しばらく常温放置それから冷蔵庫へ。まずは初呑み切りあたりまで寝かせてみようと。その前に県の新酒のきき酒会で大阪国税局の鑑定官や前出岡田君、そして県酒造組合の顧問の先生等にきき酒してもらうと、味の評価はまあまあ良い。結構期待ふくらみ気味。
 そうしてこのお酒の客観的な評価をみることのできる初呑み切り。この酵母のお酒の評価を多くの方に聞きたいので、アンケートにわざわざこのお酒の感想を書いてもらう質問を加えてみました。一般消費者の感想をいただく前に、まずは土曜日の午前中の我々スタッフのきき酒から(いわゆる本当の初呑み切り)、このお酒について色々と話してみる。酸はまだ立つ。味はまあまあ良い。しかし、香りに難点がある。泥臭いというか漬物臭というかとにかく良い香りではないのでした。でもこの香りは僅かなもので我々プロには感じられても、一般消費者で感じられる人はほとんどいないのではないかなと思いながら初呑み切りの一般公開で様子を見てみると 良い評価と悪い評価が真っ二つ。味は濃厚でうまいでの好みという良い評価もあれば。濃すぎる、良いけど不老泉としては違う・・・・という評価もかなりあり。ほぼ同数なのでこちらとしても困った……。しかし、我々スタッフで心配した香りについて指摘はなかったのです。これはある意味予想通り。さて、これからこの酵母をどうするかはますます難しくなっていくのでした。そして毎年10月の県の酒造組合のイベントにも出品してみると、まあこんなもんかなといった評価しかなく…。酒の会にも出してみるけど味は良いとのことなのですが、香りに関しての感想はなく…。判断に困るのです。しかし、決定的にいかんところが見つかりました。それはお燗。温度を上げていくと指摘しているこの香りがおもむろに出てきます。温燗くらいだと目立たないけれど、それが熱燗、上燗になってくるとかなり目立ってくるのです。私・・・・常々「温燗で燗を奨めるのは、そのお酒に自信のない証拠。自信があるんだったら熱燗で」って言いまわっている立場上・・・・・・
(かなり後悔)これはいかんなと・・・・・・。
 こうして、この酵母を使った速醸のお酒造りの目論見はリセットされたのです・・・。でも、この酸は捨てられないなと、ブレンドする分には香りも隠されて、この酸がブレンドしたお酒の全体をしまったものにしてくれるだろうと28BYも1本仕込みます。そしてこちらでも味や香りを確かめてもう一度挑戦もしてみます。やはり発酵の温度や麹のできによって酒質も左右されますし、もちろん酵母の働きも違ったものになるかもしれないと思うからです。
 この酵母単独での商品化、およびうちの速醸の酵母の変更は一度リセットになりますが、今年の造りでまた良いもろみができましたら、また酵母を分離して保存したいと考えております。とても気の長い話ですが、これから不老泉の酒を速醸・山廃としっかりと確立していくためのライフワークみたいなものになるんでしょうか??私がこの仕事をやっている間に何とか完成してくれればいいかなと。そして、今はまだ小学校2年生のただ今野球三昧の2人の子供がもし、後を継いでくれるのなら、親としてこれは残してやりたいなとずっと先を見て考えてます。
 今年も酒造り、始まります・・・・・・・・・・・・。

と績さんからの なが~~~~~いメッセージを発見。これでも だいぶ端折ったんです。

今度の朝市はこのお酒を 売らせて頂きます。績さんの 血と汗がいっぱい詰まったこのお酒。どうぞ 利いてみてくださいませ。